その8 僕の世界では
オレが主の元に来た時にはもう、主と龍王は仲が悪かった。
幾度も戦い、幾度も争った。
長い時の中一度もわかりあう事はなかった。
オレに心が出来ると主は龍王と戦い争う事を止め、龍王は一人の王が王位に就くと主の事を忘れてしまった。
オレが人の姿になれたのは、王が命を失った日だった。
その日龍王は主を思い出し、主へ戦いを挑みに来た。
主はオレがいて、鞘がいて、それなのに龍王には何もいなかった。
だから龍の王は人の王を思った。
ずっと想っていた。
「死の支配者よ。お前が我の王を奪ったのか?」
「俺の主は何もしていない。人とは短いモノだ。」
「雅納気様は人の命は支配していない。」
鞘とオレが話しても龍王はずっと悲しそうだった。
主はずっと黙ってオレを見ていた。
「我の一番大切なモノを失った。そう思うとお前も弱いのだな。一番が我の命でないなど、未だに信じられぬ。」
「命でない・・・?」
鞘は理解できないと呟き、龍王を見た。
「理解できぬか?・・・実際に失えばわかる」
そう言うと、龍王は口を開け光を放った。
オレに向かって。
「紅納刃!」
鞘の焦った声がした。
オレは龍王がずっと悲しい顔をしているのをただ見ていた。
オレが避けなかったから、だからきっと鞘は雷黒になってしまった。
「僕はもう紅納刃のいない世界を知っている。大切に思うものは一つで良い。今でも思うよ。」
「オレは・・・」
どうしてもそれに答えられなかった。
「ごめん。ごめん雷黒。オレのせいだ。」
「違う。紅納刃のせいじゃない。」
雷黒はしっかりとオレの目を見て否定してくれる。
「忘れてて、ごめん」
「かまわない。忘れていたって思い出してくれただろ?」
「うん」
雷黒は雅納気様みたいにオレの頭を撫でた。
「紅納刃。僕の大切なものは初めて会ったあの日からずっと紅納刃だけだ。命なんて僕にとっては何の意味も持たない。でも、雷黒。お前は違う。己の命を知っているだろう?」
雅納気様の言葉の意味がわからなくて雷黒を見た。
「紅納刃。この鞘はもうじき失う。」
雅納気様が冷たく言う。
「・・・」
雷黒は黙って下を見た。
そしてオレに何かを言おうとして、止めた。
「僕の紅納刃を守るんだろう?」
オレには雷黒の言いたい事がわかった。
「雅納気様。さやを助けてあげて。代わりにオレが何でもするから」
鞘の言いたい事はちゃんとわかったはず。
でも鞘はやりきれない顔をしていた。
「守る?守られてるね」
雅納気様は笑うと優しい顔をしてオレを見た。
「約束だからね。良いよ。紅納刃の望みは叶えてあげる。・・・紅納刃。僕の全て」
雅納気様がそう言うと雷黒から黒いモノが消えた。
「すまない紅納刃。でも俺は龍王にはもう負けない。」
「僕はもう龍王とは争っていない。僕には大切なものがあるからね。それだけ時は流れたんだ。」
「そうか・・・オレに出来る事はないな」
「一度帰ると良い」
雅納気様はそう言うと雷黒に背を向けて歩き出した。
オレは鞘と雅納気様を見て立ち尽くした。
その8 終
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