図書館〜永遠の約束〜
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その4 声になるまで

「俺の名は雷黒だ。」

暗闇の中に声だけが響く。

「俺はもう二度と負けない。」

滅ぶのは俺ではない。

そう、それはきっと。


オレがまだただの刀だった頃、雅納気様はいつも星空の下、月光にオレをかざしていた。
その時のオレは月光に照らされてオレの名を呼んでくれるその時間が何よりも好きだった。

「今日も紅納刃は綺麗で美しいね。素晴らし過ぎて敵わないよ。」

硬い石の上に座って雅納気様はそう言った。
その声は静かな山の空気に溶けて消えてしまったけれど、何も怖いモノなんてなかった。
雅納気様が座っている石は辺りで一番高くて月がとても近い。

「月もいつかは滅びるのだろうね。」

雅納気様はさみしそうに月を見ていた。
ここにオレがいるのに。
遠くにある月が、近くにあるオレよりも今の雅納気様を救うことが出来る。
オレじゃ救えないのか。
オレはその時本当にただの刀で、雅納気様に伝えたいことがあっても何一つとして伝える術をもっていなかった。
風が吹いて雅納気様の髪をオレに絡ませた。
雅納気様は黙ってそれを見て

「この長い髪も切ってしまおうか。」

そういってひどく冷たい顔をした。
オレの刃を髪に当てて力を込めて。

嫌だ。いやだ。切りたくない。雅納気様の髪、好きなのに。オレがそばにいるのに。ずっとそばにいたのに。
雅納気様はさみしいままだ。

オレが話せたら雅納気様はもうさみしくないのに。

「紅納刃・・・?」

その時、雅納気様が、動きを止めた。

「切りたく、ないの・・・?」

『主・・・どうしてオレの気持ちが・・・』

「ああ、本当に紅納刃なんだね」

主がそう認めてくれた瞬間。
オレは全身に間隔を得た。

「オレ、主が大好きだ。」

それははっきりと声になって。
オレは人の姿に変われるように、そして話せるようになった。

「これって主の力・・・?」

「違うよ、紅納刃。二つ違う。一つは僕の力ではない。もう一つは、僕の名前は雅納気だよ。主じゃない。」

「雅納気・・・様」

長い時間共にいたのにオレは主の名前さえ知らなかった。
だから主はさみしいままだったのか。

「雅納気様・・・もう、さみしくない?」

「紅納刃がいてくれる限り僕はさみしくないよ。」

そういってオレの手を握った。

「僕の永遠。長い時間がやっと始まる。
僕の大切な刀。人になるとは。
これから僕は紅納刃の為に生きよう。」

「じゃあオレも雅納気様の為に生きるよ。」

遠い昔、こうしてオレは生きた。
きっと雅納気様もあの日から生きはじめた。
これはオレと雅納気様が生きた日。
遥か昔の一日。

思えばあの日のせいで人の姿になった今でも、雅納気様はオレに何も切らせてくれないのかも知れない。

「雅納気様。今思い出したけど、あの時オレが切りたくないって言ったのは雅納気様の髪で、全てじゃないよ。」

「わかってるよ。はじめての紅納刃の言葉の意味を僕が知らない訳ないでしょう?」

「それなら、良いけど・・・」

オレは主が食べている木の実を見た。
それだって、オレが刻めるのに。

「料理包丁になりたい?」

オレの視線の意味に気付いた雅納気様は笑いながらそう言った。

「雅納気様がそうしたいなら良いよ。」

「料理包丁にはしたくないな。」

一言そう言うと、雅納気様はまた木の実を食べ始めた。

「本当は僕が紅納刃に何も切らせたくないだけだよ。」



懐かしい僕の紅納刃の記憶。
あの日は確かに聞こえた。

『主、オレ切りたくないよ。』

否、感じた。
あの悲しい声を。
もう二度と悲しい思いはさせない。



刀の時に好きだった月光の時間は今のオレに訪れることはない。
でも良い。
それ以外の全ての時間は全てあの時の上をゆく。
一つのさみしさがないと、幸せをわからなくなってしまう。

「オレ今、すごく幸せだ。」



我が最愛。
我の紅納刃。


「僕も今、すごく幸せだよ。」

紅納刃が幸せだというのならば、ずっと。


その4 終


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