その3 それがいつか
ピシリと音をたてて黒い欠片が落ちる。
それが届けば思い出して貰えるだろうか。
俺が朽ちるのが先か、思い出して貰えるのが先か。
ずっと信じている。
木陰でオレと雅納気様は横になっていた。
目を閉じていることに飽きたオレは、風に揺れる木の葉をずっと見つめた。
それでも長い夜は終わらずに続く。
ゆっくりと動く星を見つめても、時を感じることしかできなかった。
「暇だ・・・」
雅納気様を起こさないように小さな声で呟く。
眠ることのないオレにとって夜は暇なもの。
いつもなら雅納気様の横に寝て、雅納気様を守っている気分に浸るのだが、守る必要はないと断言された今、そんな気分にもなれない。
これでは動けない刀だったあの頃と何も変わらない。
せめて何かをしようとオレは立ち上がった。
そしてふと思いつく。
雅納気様の朝ごはんを採りに行こう。
このあたりに木の実があったはず。
頭の中に雅納気様の好きだと言っていた木の実を思い浮かべる。
「たしか緑色で四角の・・・」
木の実の名前は忘れてしまったが、色、形は覚えている。
眠る前に雅納気様と一緒に散歩した林の中へオレは木の実を求めて入って行った。
「あ、あった・・・」
目当ての実のなる木をあっさり見つけ、手を伸ばす。
「珍しい生き物がいるな。連れて帰ったらラテが喜びそうだ。」
「・・・っ!」
声のした方を見ると、一匹の人の姿をした狐が木の下に立っていた。
「生きているにしては少し不思議な気配だ。」
そう言いながら狐はゆっくりと歩いてくる。
だがその途中で固まるように立ち止まった。
「残念だけど狐。それは僕の大切な刀だ。狐が簡単に触れられるモノじゃない。」
いつの間に現れたのか、狐の目線の先には主がいた。
「死の支配者。道理で気配がおかしい訳だ。」
「死の支配者?この僕が?紅納刃が怖がるから止めて欲しいね。」
雅納気様は苛々している。
目に見えるほどに。
「無様だ、狐。死と直面したような顔をしている。気が悪くなる。立ち去れ」
冷たい目で狐を見た後、雅納気様はオレに向かって手を伸ばす。
「おいで紅納刃。」
だけどオレは怖くて動けなかった。
「紅納刃・・・?」
雅納気様は訝しげな顔をする。
いつの間にか狐は消えていた。
「おいで」
もう一度そう言うと、雅納気様はオレの腕を掴み自分のそばへ引き寄せた。
「ごめん。怖い思いをさせたね。」
その一言以外、雅納気様はもう話さなかった。
オレは一言も話すことが出来なかった。
朝日が昇るその時まで。
「紅納刃。」
朝日に照らされてようやく雅納気様の声が聞こえた。
その声が聞こえた途端に頭の中の影が消える。
「雅納気様。オレ・・・」
「紅納刃が僕の為に木の実を採ろうとしてくれて嬉しかった。ただタイミングが悪かっただけだよ。これからは一緒に採りに行こうね。」
雅納気様が普通に話してくれることと言葉にオレは笑う。
「雅納気様。これからはじゃないよ。これからもだよ。」
だっていつも一緒に採りに行ってる。
「そうだね。」
雅納気様も笑った。
幸せな気分のオレの手の上にどこからか黒い欠片が舞い落ちた。
その3 終
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