図書館〜永遠の約束〜
TOP ご案内 図書館 写真館 BLOG LINK


その2 心でずっと呼ぶ

光の届かない闇の果て。

黒い影はゆっくりと動く。

「紅納刃。俺の守るべき刀」

何かを求めるように黒い影の手は動く。

「それが俺の役目。」

触れられないと知っていても。

かわいた音を立てて触れられない手は落ちた。


オレには何よりも大切なものが二つある。
一つは雅納気様。
オレの全ては雅納気様だ。
オレは雅納気様に造られ、雅納気様に名付けられた。
人には理解できないだろうけど、それがすべてだ。
もう一つは、もやもやして思い出せない何か。
少し前まで覚えていたはずの何かの存在が大切だ。
でも、思い出せない大切なものは雅納気様には内緒だ。
なぜならば、オレがそれを思い出せないのは、雅納気様の力によるものだとわかるからだ。
これもきっと人には理解できないだろう。
それで構わない。
大切なものがわからなくても、オレには雅納気様が全てだから。

大切なものは二つ。
でも一番は雅納気様だ。
それが今のオレ。

オレにとって雅納気様は全て。
これはずっと変わらない事。

昔のオレもそうだった。

オレがはじまった日ははじまりに似合わない暗い日だった。

空には黒い雲が広がり今にも雨が降り出しそうだった。
川は濁っていてごうごうと嫌な音を立てて流れていた。
雅納気様はそんな川のそばを歩いていた。


全ては僕のモノではない。
この命でさえも。
奪い与えることは出来ても、僕のモノには決してならない。


その思いから、雅納気様は憮然とした表情で歩いていた。


長い時間を一人で過ごし、誰かと共に過ごすことをあきらめた。
この世のすべての魔力を僕が司ってはいるが、それは何の役にも立たない。
奪うことなく与え続けたいと思える大切な存在など僕には持てないのだ。
この世のすべての魔力と引き換えに。
それが僕の運命で役割ならば、それで構わない。
大切な存在など必要ない。


雅納気様はそうあきらめていた。

オレのはじまる瞬間までは。


空から美しく燃える紅い石が降る。
深緋から深紅、臙脂色、金赤そしてばら色へと姿を変えて。
地面に落ちるとともに、風に削られ歪な刀の形に変わった。
とき色から朱華色そして桜色へと姿を変えて、白く美しい色をまとった刀は、僕の目の前で止まった。

その時気付いた。

これは僕のモノだと。

僕の為のモノだと。

この地に僕のモノはない。
だけど、この世になら僕のモノはある。

僕はあきらめてなどいなかった。
あきらめたふりをしていたんだ。


雅納気様は夜寝る前に、この話をよくしてくれる。
寝る前には幸せなことを考えると良いと雅納気様は言っていた。
刀のオレにはわからないけど。

落ちてきた石は紅く染まっていてゆっくりと白に変わっていった。
だからオレの名は紅納刃という。


雅納気様の手が触れる。


「紅納刃。僕の刀」

僕の力はこの為にあったのだ。

「大切な刀。僕の名から一字をあげよう。これからはずっと静かな世界で二人きり」

静かな世界。
世界が静かなのはオレが隕石だから。
そしてその時から雅納気様の刀。
ただの石から刀へと変化を遂げた
この日がオレのはじまった日。

納めるのは僕の悲しみ。
紅納刃の無。

長い時間の後、紅い刀は人の姿になる。
そしてまた僕は確信する。
紅納刃は僕のためにあり、僕は紅納刃の為にあるのだと。

ずっと君を呼んでいたんだ。


その2 終


次へ



戻る/TOP