その1 君の名を
暗闇を照らす朝日。
照りつける太陽。
赤く染まる夕日。
夜を照らす月光。
その光を何度も感じていた。
目はなくともわかるものがある。
それを全身で感じていた。
オレは刀。
名は紅納刃(くなは)。
名前の由来は、オレが刀であることと、紅い石であったことからきている。
刀であるオレには持ち主がいる。
持ち主の名は雅納気(がなき)様。
ただの刀であるオレに心があるのは、主が凄い存在だからだ。
オレの主はこの世にある全ての魔力を司る存在。
魔力は雅納気様が与え、奪うもの。
そんな主の刀であるからこそ、オレには心がある。
昔は心があるだけだったが、今では人の姿にもなれる。
長い時間を経て変われた。
この先も主と一緒にいられれば、もっと変わることができる。
オレにはそれがわかっていた。
オレと雅納気様の命には果てがない。
主はその役目の為、自らの命を失わない。
オレは主が魔力を司る限りは命を失わない。
つまりは永遠だ。
オレは人ではないから、違う所がいくつかある。
その中でも、最も特徴的なものは、絶対に傷がつかない事だ。
それは、オレが石の刀であるからだと思うけど、詳しい事は雅納気様もわからないと言っていた。
雅納気様にわからない事がオレにわかるはずもない。
そのことについては、オレはもう考えない事にした。
もう一つ特徴的なことは、眠らないことだ。
現に今も眠っていない。
時は夜で真っ暗。
今日は新月みたいだ。
「紅納刃・・・」
静まり返った闇の中、雅納気様の声が響く。
寝言だろうか。
雅納気様は眠っているから、オレは返事をしないで見つめた。
「紅納刃」
はっきりと名を呼ばれる。
起きているのだろうか。
わからないからオレはまた見つめた。
「紅納刃が眠らないことは知っているけどね・・・」
どうやら雅納気様は起きていたらしい。
上半身を起こすと、木にもたれて座っているオレと目を合わせた。
「せめて、目を閉じて横になって眠るふりをして欲しい。できるよね?紅納刃」
オレが答えられず困惑していると雅納気様は続けた。
「そうやって目を開けていられると、見張りをしているみたいで嫌だ。」
「でも、雅納気様。オレは雅納気様の刀なんだ。夜くらいは守りたいよ。」
オレは刀のくせに雅納気様を守った事が一度もない。
「紅納刃。紅納刃は僕を守るためでなく、幸せにするためにいるんだ。何度も言っているだろう?」
口調は厳しいけど、雅納気様の目は優しかった。
「それに僕を守るだって?紅納刃は戦う刀ではない。見る刀だ。見る為の刀だ。今まで一度も紅納刃に何かを切らせたことなんてないだろう?」
「そうだね」
短く一言だけ答えたオレに雅納気様は毛布をかけてこう言った。
「紅納刃の事は何があっても僕が守る。紅納刃が僕を守る必要なんてないんだよ。この世に僕より力のある者なんていないんだから」
いつかはオレが雅納気様に言いたい台詞だ。
長い時間を経て変わることが出来たのだから、そう言える日が来ることもあるかもしれない。
長い先の未来には、何があるかわからないから。
でもオレにはそんな日が来ないと、どこかでわかっていた。
雅納気様と共に星空を見上げる。
とても静かだった。
雅納気様は人ではないけれど眠る。
そしてこの世の始まりに生まれ終わりに失う。
そういう存在だと女神様に聞いた。
オレが何よりも心配なのはこの世の終わり。
この世と雅納気様と共にオレも失うことが出来るのだろうか。
それだけだ。
「ほら紅納刃、目を閉じて。紅納刃がするべきことは僕を幸せにする、それだけだ。」
雅納気様の幸せのためにオレはオレの大切な記憶を思い出せない。
オレが思い出せないのは雅納気様がそれを願っているから。
オレの中の二つの大切な記憶。
一つは雅納気様。
もう一つはもやもやした何か。
覚えていなくても大切だとわかる。
でもオレは雅納気様のため、それを思い出せない。
ああ、でも。
やっぱり、名前くらいは思い出したい。
その1 終
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