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その1 旅の始まり 「・・・何だ?」 突然、目の前が真っ暗になった。 目には暖かい感覚が。 「龍王か?」 俺の目を覆っている手の持ち主は誰だろうか。 一番親しい者の名をあげても、反応はない。 ぽつりと、手の主はしゃべり始めた。 「お前、人のくせに龍と知り合いか。・・・厄介者が入り込んだな」 「誰だ?」 聞こえてきた声に心当たりはない。 俺のことを人のくせにと言うのだから、手の持ち主は人ではないのだろう。 「人よ。どうやってここに入ってきた?ここは人には入れぬ地」 「さぁ?気付いたらここにいたんだ」 手が暖かい。 人間よりもずっと。 龍でないなら、狐だろうか。 この世界では、人でなければ、龍か狐か、だいたい、その二択だ。 そうこう考えていると、背後から息を吐く音が聞こえてきた。 「・・・我が、手ずから術をかけるか」 その不穏な声を最後に、俺の記憶は全部消えてしまった。 「やっぱり狐か」 俺の思っていた通り、手の持ち主は金色の毛をした狐だった。 ただし、人の姿をしている。 「記憶があるのか?我の術が効かないとは」 「いや、効いてる。あんたのこと以外は思い出せないからな」 狐は、言葉では驚いたようなことを言っているが、表情は全く驚いていない。 食えないやつだ。 「そうか、それは良かった」 「よくない」 正直なところ、狐の術はそんなに強くないようだ。 時間がたつにつれ、少しずつ記憶が戻りつつある。 だが、それを正直に告げたら面白くない。 俺が知らず入り込んだこの地は、狐にとってよほど大切な場所らしい。 記憶を全て消すほどならば、より一層どう大切なのかが気になる。 少し、楽しませてもらおう。 「さて、我は行くとしようかな。お前はどうする?」 「さあ?何も覚えていないから、どうもこうも」 「では、な」 「・・・待った」 背を向けようとした狐を呼び止める。 「一つ聞きたい」 「なんだ?」 狐は狐らしくニヤリと笑って軽く尾を揺らした。 「ここが大切な場所だってことは分かったが、一体何があるんだ?それが知りたい。 記憶を全部消されたんだ。それくらい聞いても高くはないだろ?」 「いや、高い。お前の記憶全てより、この地のモノは数倍高い」 そんなに隠したいものがあるらしい。 ここにあるモノ。 そう、それは、たぶん。 「狐の宝。預かりモノがあるんだな?」 ここにきて初めて狐は心底驚いた顔をした。 「術が効いていないのか・・・?」 「いや、さっき言った通り効いてる。いや、効いてたと言ったほうが正しい。 あんたと話している間に記憶が戻ってきたのさ」 ゆっくり、ゆっくりと。 色が戻っていく。 龍王。 そう、俺はお前に会いに。 「人は本当にわからないな。もっと脆弱かと思っていた」 「それは人様を舐めすぎだ。あんたが思っているほど、人間は弱くない」 獣は、人間を馬鹿にしている。 儚い命と、弱い力と。 龍も狐も。 「狐の宝見せてもらおうか。この分なら、そう難しくはなさそうだ」 意気揚々と告げる。 狐はそれを黙って聞いていたが、不意に耐え切れなくなったかのように笑い出した。 「ふふふ・・・ははははは! なるほど、人は面白い!どうして人と関わるのかと、疑問だったが今わかった。 弱きものが己の力を知らず、刃向ってくるのは、中々に趣がある。 龍たちの考えもわかる気がするな」 面白いと笑いながらも、狐の顔は怒りに満ちていた。 そういえば、狐は自尊の気持ちが高いと龍王が言っていた。 でも、きっと、龍のほうが高いと思うけど。 ゆらゆらと、狐の周りに光が灯っていく。 青い火。 狐火だ。 「お前、我らの宝が見たいといったな、見せてやる! だが、見たなら最後、この世のすべての力を敵に回す。 触れるな壊すな、命を失う。 ここにあるのは力の支配者雅納気様の愛刀『紅納刃』 知ったからには、お前は今生、楽に生きられると思うな。 そら見た! これが我らの宝!」 狂ったように、歌うように狐は声を出す。 狐の声に合わせ狐火が揺れ、地面を照らす。 「命惜しくば目を瞑れ!」 ばちばちと音が鳴り、空気が冷える。 「力の支配者、命の支配者、預かりモノは今ここに!」 すうっと音が消え、光だけが強くなる。 月は、いつの間に昇ったのだろう。 月光。 強い月の光に照らされて、一本の刀が現れた。 「すごい・・きれい」 簡単な言葉しか出てこない。 真っ白な美しい刀。 一つの傷もなく、静かにそこにある。 刀を出した狐でさえも魅入っていた。 「これが狐の宝か」 「・・・ああ」 どこか上の空で会話をする。 とにかくきれいな刀だった。 「長―!封印が!」 遠くから女の子の声がする。 それに反応したのは狐だ。 「ラテ。大丈夫だ。封印は我が解いた」 呆けていた狐は、ラテと呼ばれた女の子を見ると、正気に戻って、柔らかい笑顔を見せた。 「びっくりしたよ!」 そう言って女の子は狐の胸に飛び込んだ。 「やれやれ、とんだ災難だ。・・・人よ。ついて来い。 お前に世界の全てを見せてやる」 腕の中の女の子の頭を撫でつつ、狐が俺に言う。 「は?突然何だ?唐突な奴だな」 いきなり記憶を消してみたり、間のない狐だ。 狐って皆そうなのか? 「我らの一番の秘密を知った。いや、この世の一番の秘密か」 「それでどうして?」 「お前が今後どうなるのかを知りたい」 そこまで言って、狐は悪い笑顔をつくった。 「お前がどう命を消すのかを見てみたい」 「悪趣味な奴」 「長?」 不思議そうに小首をかしげる子に笑いかけてから、俺へ冷たい目を向ける。 「どうする?来るか?」 答えはもう決まっている。 船に乗ったらもう下りられない。 「ああ」 そう簡単に死んでたまるか。 狐が驚くほど生きてやろう。 「後悔するなよ?」 こうして、俺の旅ははじまった。 その1 終 |